◆判決文◆
平成18年10月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 戸沢 栄
平成18年(行ヶ)第3号 採決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年9月11日
判 決
○○県○○市
原告 松本健二
東京都千代田区霞ヶ関一丁目1番3号
被告 日本弁護士連合会
代表者会長 平山正剛
訴訟代理人弁護士 加戸茂樹
同 葭原敬
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 請求の趣旨
被告の請求に対する平成17年10月12日付けの審査請求を棄却するとの裁決を取り消す。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案件の答弁
原告の本件訴えを却下する。
(2) 本案に対する答弁
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,東京弁護士会(以下「東弁」という。)所属の弁護士である原告が,東弁から業務停止2年の懲戒処分を受け、弁護士法59条に基づき被告に対して審査請求をしたところ,被告が,審査請求を棄却するとの裁決(以下、「本件裁決」という。)をしたため,原告には懲戒事由がないと主張して,同法61条に基づき本件裁決の取消しを求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠等により容易に認定できる事実については,末尾に証拠等を記載した。)
(1)原告は,東弁所属の弁護士(登録番号13156)であったところ,期間を平成11年4月7日から平成12年10月6日までとする業務停止の懲戒処分及び期間を同年9月29日から平成13年9月28日までとする業務停止の懲戒処分をそれぞれ受けていた(甲2の1,2)。
(2)東弁は、原告に対して、平成17年5月9日、業務停止2年の懲戒処分をした(平成16年東懲第20号事案、甲2の1、2、以下「本件懲戒処分」という。)
(3)原告は被告に対して、平成17年懲(審)第12号審査請求事件。以下「審査請求」という。)ところ、被告は、同年10月12日、本件審査請求を棄却するとの裁決(本件裁決)をして、裁決書は、同年21日、原告に送達された。(甲2の5)。
(4)原告は、被告に対して、弁護士名簿の登録取消しを請求し、これに基づき、被告は、平成17年5月23日、原告について弁護士名簿の登録を取り消した。(甲3の20)
3 争点
(1)訴えの利益の有無
(2)本件懲戒処分の当否
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(訴えの利益の有無)について
ア 被告
弁護士の懲戒制度は、弁護士名簿に登録されている者を対象とするものであり、弁護士としては登録される資格を有していても、現に弁護士として登録されていないものはその対象とはならないところ、原告は、弁護士名簿の登録を取り消されており、本件裁決の取消によって回復すべき法律上の利益を有していないから訴えの利益がない。
イ 原告
(ア)原告は、弁護士として登録される資格を有しているから、本件裁決の取消によって回復すべき法律上の利益があり、本件訴訟は適法である。
(イ)被告は、本件審査請求を却下するのではなく、実体判断をして棄却するとの裁決をしており、また、原告に対し、本件裁決については当庁への不服も申立になると教示した。したがって、被告も、本件審査請求については法律上の利益があることを前提としているのであり、本件訴訟において訴えの利益があることを前提とした対応をしているのであり、本件訴訟において訴えの利益がないと主張ないとすることは、禁反言の原則にも反している。
(2)争点(2)(本件懲戒処分の当否)について
ア被告
(ア)原告は、業務停止期間中に、法律相談を受け、弁護士資格のないものをして示談交渉に当たらせ、報酬を得たものであり、原告の行為は、弁護士法56条1項所定の弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。その具体的な内容は次の通りである。
a 原告は、業務停止期間中に、有限会S信託(以下「S信託」という。)とK建設株式会社(以下「K建設」という。)との間の土地売買契約並びにS信託と甲建物株式会社及び乙興産株式会社(一括して、以下「甲建物ら」という。)との間の土地売買契約の履行を巡る紛争に関して、S信託の代表者であるH(以下「H」という。)から弁護士として相談を受け、Hに対して、弁護士の資格を有していない全日本同和会△支部会長であるY(以下「Y」という。)及び同会副会長であり、株式会社丙代表取締役であるT(以下「T」といい、Yと一括して「Yら」という。)を紹介し、上記紛争の示談交渉をYらに委ねた。
b 原告は、Hから、平成12年3月2日ころ及び同月7日に各2万を受領し、また、Tから、同年5年上旬ころ、報酬として250万を受領した。
(イ)被告は次のような経緯を踏まえて本件裁決をした。
a S信託は、東弁に対し、原告が、業務停止期間中であることを告げないまま相談に応じ、Yらを紹介して示談交渉に当たらせ、報酬を取得したとして、原告の懲戒を申し立てた。
b 東弁綱紀委員会は、原告について事案の審査を求めることを相当とするとの議決を行い、これを受けて、東弁懲戒委員会は、原告を業務停止2年の懲戒に処するのを相当と認めるとの議決を行ったので、これに基づき、東弁は、平成17年5月9日、本件懲戒処分をした。
c 原告は、被告に対して、平成17年6月29日、行政不服審査法に基づき審査請求をしたところ、審査請求書には「理由を追って提出する。」としておきながら、結局、その理由を明らかにしなかったので、被告は、本件裁決をした。
(ウ)以上のとおりであり、被告の本件裁決には、その内容及び手続きともに何らの瑕疵がない。
イ 原告
原告は、旧友であるK税理士の要請を受けて、Hのためにスポンサーないし援助者を紹介したにすぎず、紛争の解決を引き受けたものではない。原告は、Yらを紹介した後は、これに全く関与しておらず、また、H及びYらの双方から連絡ないし相談等を一切受けていないのであり、弁護士としての活動を行ったことはなく、本件懲戒処分及び本件裁決は何らの根拠を有しないものである。
なお、Yらが関与したのは、弁護士業務に当たるような示談交渉ではなく、純粋な経済活動であり、原告がHから受領した金員も、Yに複数の事件を紹介したことに対する報酬にすぎない。
第3 判断
1 争点(1)(訴えの利益の有無)について
被告は、現に弁護士名簿に登録されていない者は懲戒制度の対象とはならないところ、原告が、弁護士名簿の登録を取り消されており、本件裁決の取消によって回復すべき法律上の利益を有していないから、本件訴訟は訴えの利益がないと主張する。
弁護士の懲戒制度が、現に弁護士名簿に登録されている者を対象とするものであることは被告の主張するとおりである。しかしながら、弁護士名簿への登録を取り消された弁護士であっても、弁護士として登録される資格を有しいる以上、将来再び弁護士として登録されることがあり得るところ、業務停止処分など弁護士法57条所定の処分を受けた者は、当該処分に対し不服の申し立てができなくなった日から3年を経過するまでは被告の会長選挙において被選挙権を有しないことになる(日本弁護士連合会会規19号(日本弁護士連合会会長選挙規程)13条、14条参照)という不利益を受けることになるから、原告についても、弁護士として登録される資格を有している以上、本件裁決の取消によって回復すべき法律上の利益があるものというべきであり、本件訴訟は適法であると判断するのが相当である(最高裁昭和56年(行ツ)弟171号同58年4月5日第三小法廷判決・裁判集民事138号493頁参照)。
2 争点(2)(本件懲戒処分の当否)について
(1)証拠(甲2の1,2,5乙1,2,3の1ないし3,4,6,7,9,32ないし35,38,44,50ないし56)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア S信託は、K建設から、平成12年1月18日、○○市××番地ほか合計4筆の土地を代金合計6708万3000円で買い受けた(以下「第1売買」という)。S信託は、K建設に対して、第1売買の際、手付金300万円を支払い、物件の引渡しと残代金の支払いは同年2月29日と合意された。
イ S信託は、甲建物らに対し、平成12年2月9日、アの土地を含む合計13筆の土地を代金合計4億4060万7000円で売却した(以下「第2売買」といい、第1売買と一括して「本件売買」という。)。第2売買では手付金を4460万0700円、都市計画法29条所定の開発許可取得後の10日以内に中間金を3億7555万6500円、造成工事完了後の10日以内に残代金2098万9800円を支払うこととされていた。また、S信託は開発許可の取得のために必要な協力を行い、平成12年4月末を開発許可取得の目処とすることも合意された。
ウ S信託は、開発許可の取得に必要な協力を怠ったとして甲建物らから8800万円もの高額の違約金を請求されることが懸念される事態となり、また、第1売買の残代金を機嫌までに支払うことができず、K建設から損害賠償を請求されることも予想される事態となった。
エ 原告は、平成12年3月2日、同人の事務所において、S信託の代表者であるHから、本件売買の不履行による損害賠償責任について相談を受けた。その際、原告は、Hに対して、「弁護士」との肩書きが記載され、「松本健二法律事務所」と記載された名刺を交付した。
オ 原告は、平成12年3月上旬ころ、Hに対して、弁護士の資格を有していないYらを紹介し、同月6日、Hから相談を受けていた本件売買の不履行による損害賠償責任に関する問題の解決をYらに委ねた。そして、原告は、Hから、同月2日ころ及び同月7日に各2万円を受領した。
カ Yらは、S誠信託の代理人として、甲建物らとの間に交渉に当たった結果、違約金を1000万円とすることで合意した。そして原告は、Tから、平成12年5月上旬ごろ、報酬として250万円を受領した。なお、この250万円は、甲建物らが第2売買について代理受領者であるTに支払った代金の一部がこれに充てられた。
キ S信託は、Yらとの間で金銭の授受に関する紛争が発生し、その解決が図られなかったことを契機として、東弁に対し、平成14年12月6日、原告が、業務停止期間中であることを告げないまま相談に応じ、Yらを紹介して示談交渉に当たらせ、報酬を取得したとして、原告の懲戒を申し立てた。
原告は、平成15年1月14日、答弁書を提出し、弁護士業務の受任や報酬の受領の事実はなく、単にスポンサーを紹介しただけであると主張した。
ク 東弁綱紀委員会は、S信託の申立てについて調査を行い、平成16年10月15日、東弁懲戒委員会に対し原告について事案の審査を求めることを相当とするとの議決をした。そこで、東弁は、東弁懲戒委員会の審査に付したところ、東弁懲戒委員会は、原告を業務停止2年の懲戒に処するのを相当と認めるとの議決を行い、これに基づき、東弁は、平成17年5月9日、本件を懲戒処分をした。
ケ 原告は、被告に対して、平成17年6月29日、行政不服審査法に基づき審査請求をしたところ、被告懲戒委員会は、同年10月11日、「本件審査請求は棄却するを相当とする。」との議決を行い、これに基づき、被告は、同月12日、本件裁決をした。
(2)弁護士に対して懲戒処分としての業務停止処分がされている場合には、自ら積極的に弁護士としての活動をすることだけではなく、弁護士でなければできないことを第三者に対して行わせることをも禁止する趣旨であると解するべきところ、(1)で認定した事実によれば、原告は、業務停止期間中に、土地売買契約を巡る紛争に関して、S信託の代表者であるHから弁護士として相談を受け、Hに対して、弁護士の資格を有していないYらを紹介して、紛争の示談交渉委ね、その後、Hから2回にわたり合計4万円を受領し、また、Tから、報酬として250万円を受領したというのであり、業務停止期間中に、法律相談を受け、弁護士資格のない者をして示談交渉に当たらせ、報酬を得たものであり、原告の行為は、弁護士法56条1項所定の弁護士としての品位を失うべき非行に該当すると判断するのが相当である。そして、前記認定のとおり、東弁は、綱紀委員会及び懲戒委員会での手続に基づき本件懲戒処分を行い、これを踏まえて、被告は本件裁決を行ったのであるから、その手続きにも何ら違法とすべき点を見いだすことはできない。
(3)原告は、Hのためにスポンサーないし援助者を紹介したにすぎず、紛争の解決を引き受けたものではないし、Yらを紹介した後はこれに全く関与しておらず、また、Yらが関与したのは、弁護士業務に当たるような示談交渉ではなく、純粋な経済活動であるから、本件懲戒処分及び本件裁決は何らの根拠を有しないものであると主張し、これに沿う甲1(原告作成の陳述書)、甲2の3(K税理士作成の陳述書)、甲2の4(Y作成の陳述書)及び甲3の19(原告の妻である松本順子作成の陳述書)を提出する。しかしながら、Yらが行った活動は、実質的には本件売買の不履行に伴い発生することが憂慮されていたS信託の違約金支払い義務を免れさせるための和解交渉であったというべきであり、Yらの純粋な経済活動とは到底解することができず、また、前掲各証拠に照らすと、原告が、Yらを紹介した後に本件に全く関与していなかったとも認められないから、原告の主張を採用することはできない。
また、原告は、Hから受領した金員は、Yらを紹介した際の打合わせのための実費であり、Tから受領した金員も、Yに複数の事件を紹介したことに対する報酬にすぎないと主張する。しかしながら、前記認定の事実に照らすと、原告がHやTから受領した金員は、本件売買の不履行に伴う損害賠償責任についての法律相談を受け、弁護士資格のない者をしてその解決のために示談交渉に当たらせた報酬の趣旨を有するものと認められるのが相当であるから、この点についての原告の主張も採用することはできない。
3 以上によれば、本件懲戒処分及び本件裁決が何らの根拠を有しないものであるとの原告の主張を採用することはできず、被告がした本件裁決は適法であると判断するのが相当である。
第4 結論
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第4特別部
裁判官 奥 田 隆 文
裁判官 谷 口 園 恵
裁判長裁判官房村精一は、転補につき署名押印することができない。
裁判官 奥 田 隆 文
これは正本である。
平成18年10月25日
東京高等裁判所第4特別部
裁判所書記官 戸 沢 栄

